Circulating fibrocyte ~国際炎症学会(WCI)2009 4日目~

 この学会には4日目(7月9日)まで参加してきました。学会では、血液中のfibrocyteという細胞についての講演がありました。

 体の中には、組織中にコラーゲン線維(collagen fiber)を合成する線維芽細胞というものがあります。コラーゲンは、皮膚をきれいに保つものとしてよく知られているかと思いますが、体の一部分に多くできてしまうと、その組織の機能が低下してしまうことがあります。その原因は、組織の中で“間質”というあまり物質の交換(代謝)が行われない部分が、増えてしまうためと考えればいいでしょうか。

 組織の中にコラーゲン線維が多く合成され、蓄積されてしまうことを線維化(fibrosis)といいます。これは、組織が傷害されたときに起こることが最もよく知られています。線維化を伴う疾患はいくつも知られていますが、コラーゲン線維を合成する線維芽細胞がそこにどのように増えてくるのか、すなわち、この細胞がどのように集められるか、もしくは分化するのかはよく分かっていません。そのメカニズムを説明し得るものとして、血液中に少ないながら存在するfibrocyteに関する研究が進められています。

 今日と昨日に一つずつ、このfibrocyteについての講演があったので、その内容をまとめて紹介します。

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 Fibrocyteは骨髄系の血球細胞で、血液中にわずかながら流れています。そして、ケモカインにより誘引され、組織に移行することができます。ケモカインに誘引されるということは、ケモカイン受容体を発現しているということですが、これまでにCXCR4、CCR7、CCR2を発現していることが明らかになっています。他にも、表面抗原としてCD45を持ち、type I, II, III, IV collagen、fibronectin、vimentin、α-SMAを産生できるという特徴が知られています。

 このfibrocyteの発現しているCCR7のリガンドとして、CCL12/SLCがあります。つまり、CCL12を高発現している組織があるとfibrocyteが誘引され、集積することになります。そこで、線維化が起こっている腎を見てみると、腎の血管内皮細胞におけるCCL12の発現亢進が見られるということです。(しかし、この例でどのようにしてCCL12が発現亢進するのかは、明らかになっていないそうです。)

 Sakai N and Wada T et al. Secondary lymphoid tissue chemokine (SLC/CCL21)/CCR7 signaling regulates fibrocytes in renal fibrosis. Proc Natl Acad Sci USA 103: 14098-14103 (2006)

 次に、線維化が起こるためには、組織中に浸潤した細胞がコラーゲン線維を合成する段階を踏むことになりますが、このfibrocyteはこれを合成することができます。興味深いことに、fibrocyteはアンギオテンシン受容体(アンギオテンシンは、血圧の調節に密接に関わるオータコイド)のAT1RとAT2Rを発現しており、アンギオテンシンIIによってそのtype I collagen (Col1a)の発現が増強されるそうです。アンギオテンシンがまだ知られていない機能を持っている可能性を示唆する報告であり、興味が持たれます。

 Sakai N and Wada T et al. The renin-angiotensin system contribute to renal fibrosis through regulation of fibrocytes. J Hypertens 26: 780-790 (2008)

 腎だけでなく、肺の線維化における血液中のfibrocyteの関与についても、すでに総説が書かれています。

 Lama VN and Phan SH: The extrapulmonary origin of fibroblasts. Proc Am Thorac Soc 3: 373-376 (2006)

 学会の講演では、ブレオマイシン(抗がん剤)誘発性、または特発性の肺の線維化例において、fibrocyteの数が血液中と肺組織中で増えていることが示されています。肺へのfibrocyteの浸潤には、肺でのCCL12とfibrocyteのCCR7との相互作用が必要であることや、線維化が治癒した例では血液中のfibrocyteの量が正常に戻る(減る)ことも示されていました。

 私は、血液中にfibrocyteというものがあることを今回の学会で初めて知りました。線維化を伴う疾患に新しい知見を提供し、新しくかつ有効な治療法の可能性を考える上で、とても興味深いものだと思います。


WCI2009での講演:

"Chemokines and inflammation in kidney"
by Takashi Wada
Inflam Res 58 (Suppl 2): S108

"Fibrocytes as circulating mesenchymal progenitor cells in pulmonary fibrosis: the importance of the CXCR4/CXCL12 biological axis"
by Robert M Strieter
Inflam Res 58 (Suppl 2): S83

 

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