乳児の玉子の摂取と子どものアレルギー

 以前にもここで紹介した本「環境問題としてのアレルギー」で、子どものアレルギーは抑えられるかということについて興味深い一節がありましたので、紹介します。

 子どものアレルギー疾患、すなわちアトピー性皮膚炎、気管支喘息アレルギー性鼻炎・結膜炎は、年齢が進むに連れて次から次へと発症することがあります(いわゆるアレルギーマーチ)。すると、子どもは一度何らかのアレルギー疾患に罹ってしまうと、その後何年かにわたりいくつかのアレルギー疾患に悩まされることになってしまいます。これを抑える一つの方法として、著者の伊藤幸治先生は、次のような記述をしています。

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 アレルギー疾患の増加の原因には、

①近年増えているマンション型の住宅では、木造住宅と比べてダニが多いこと
アレルギー性鼻炎(花粉症)の原因となるスギ花粉などが増えていること

などが挙げられるが、他に、

③離乳食の問題

も考えられる。
 離乳食として与えられる動物性タンパク質としては玉子が重要なものであるが、玉子の摂取の開始時期は近年徐々に早くなり、現在では生後4ヶ月で60%以上の子どもが、何らかの形で玉子を与えられている。
 玉子は栄養価が極めて高く、離乳食として優れている一方で、その成分、特にオボアルブミンとオボムコイドはアレルギー感作物質としての抗原性が強い。そのため、アレルギー体質を持つ子を感作してアレルギーの発症準備状態を作ってしまい、やがていくつかのアレルギー疾患を発症させる一因となる可能性がある。


 著者はアレルギー疾患で来院した患児の母親に、次子を妊娠した場合、妊娠8ヶ月以降、さらに母乳を与える場合には子どもが生後8ヶ月になるまで、離乳食として玉子とそれを含む一切の食品を与えることを禁止した。
 すると、両親がアトピー性皮膚炎と気管支喘息を持ち、アトピー素因が強い場合に、上記のような玉子の禁止をしなかった場合では子どもの84.6%が5歳までにアトピー性皮膚炎か気管支喘息を発症してしまったが、玉子の摂取を禁止すると、その発症率は34.6%と減少した。

 さらに、玉子を上述の期間禁止した場合、子どもにおいて玉子アレルギーの発症時に体内で増える物質(卵白アルブミンに対する特異的IgE抗体)の上昇が見られないが、同時に、他のアレルギーの発症時に体内で増える物質(ダニに対する特異的IgE抗体など)の上昇も見られないことが明らかになった。これらの事実は、妊娠後期や授乳期の母親、そして乳児に玉子の摂取を控えることで、玉子やダニなどに対するアレルギーが抑えられ、アトピー性皮膚炎や気管支喘息の発症も抑えることができる可能性を示していると考えられる。

 玉子の摂取を控えることで、なぜ将来のアレルギーの発症を抑えることができるか。この理由の一つとして、乳児の消化力の問題がある。乳児の消化力は年齢が低いほど未熟であり、食物を十分に消化することができない。すなわち、食物を抗原性を持たない低分子のものにまで消化できないため、食物中の抗原性を持つタンパク質により感作されてしまい、アレルギーを発症しやすくしてしまうと考えられる。

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 玉子を今のように玉子を普段から食べられるようになったのは、比較的最近で、戦後しばらく経った後でも「玉子はご馳走」という感じだったそうです。最近のアレルギー疾患の増加に、妊娠後期や授乳期の玉子の摂取が一つの要因になってしまっている可能性は、確かにあるかもしれません。

 現在は、お菓子などの多くの食品に玉子が入っているので、完全に玉子の入っている食べ物を取らないということは無理だと思います。何事も神経質になりすぎることは決して良くないので、玉子を絶対に食べないという所までは思い詰めない方が良いと思いますが、妊娠後期から授乳期のお母さんの玉子の摂取、そして離乳食としての玉子の摂取を“心持ち”控えることは、アレルギーの予防に有効ではあるのかなと思います。

 ところで、「子どもは一度何らかのアレルギー疾患に罹ってしまうと、その後何年かにわたりいくつかのアレルギー疾患に悩まされることになる」と初めに書きました。しかし、治療に難渋した気管支喘息がいつしか発作もなくなり完治することもあります。実際に私の知人にも、子どもの頃は季節の変わり目にいつも喘息発作で救急車で運ばれてしまったにも関わらず、フツーの生活を続けた結果、喘息がまったく起こらなくなった人がいます。
 しかし多くの場合、大人になってからのアレルギーを抑えるには、アレルゲンをできるだけ自分から遠ざけるから、抗アレルギー薬などで症状を抑えるかしか方法がないのが現状です。

 「アレルギー疾患の発症、加齢による変化、治療過程については、まだあまりにも多くの解明されなくてはならない問題が残されているように思われるのである。」と、紹介している本の著者も述べていますが、私もまったくそう思います。


引用は、『環境問題としてのアレルギー』
伊藤幸治著(日本放送出版協会 NHKブックス、1995)より
(一部改)

鶏卵消費量の年代推移については、
 
http://homepage3.nifty.com/takakis2/keizai.htm
 (下の方に表が掲載されています。)

 

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