薬学部・小茂田昌代先生との共同研究と最終講義

 薬剤師にはその専門知識で職能を発揮する場がありますが、それを十分に活かせているといえるでしょうか。より広く適切にその職能を発揮すべきとしたら、それはどのような形をとり得るでしょうか。

 その課題に長年取り組まれてきた小茂田昌代先生が、2020年3月に理科大薬学部をご退任されました。それに際しての “最終講義” が先日オンラインで開催され、私も聴講しながら御礼の挨拶をする機会がありました。

 小茂田先生の業績の代表というと、薬歴管理システムの医療現場への導入・実装が真っ先に思い浮かびます。今では当たり前の薬歴管理がほとんど無かった1990年代に、それをするためのシステムを立ち上げてきたお話を、理科大薬学部に小茂田先生が着任された当初からよく聞いていました。

 そのシステムを立ち上げるご苦労の裏に、「患者さんに有効な薬を届け、安全に使ってもらいたい」という小茂田先生の想いがあり、その想いが、安全性の判っている薬剤の適応拡大に向けた臨床研究という先生のもう一つのお仕事とも繋がります。

 そのうちの一つが、薬剤耐性(ピレスロイド=スミスリン耐性)のアタマジラミに対するイベルメクチンの適応可能性を検証してきた研究です。私もそのアタマジラミ検体の遺伝子解析を行う縁をいただいて、その成果を最近2つの論文として発表することができました。

 その1つ目が、
・Komoda M, et al.,
 "Efficacy and safety of a combination regimen of phenothrin and ivermectin lotion in patients with head lice in Okinawa, Japan."
 Journal of Dermatology, 47(7): 720-727 (2020)

 2つ目が、
・Sato E & Umezawa M, et al.,
 "Efficacy and safety of a modified combination regimen of phenothrin and ivermectin lotion in patients with head lice in Tsukuba, Japan."
 Journal of Cutaneous Immunology and Allergy, 4(1): 4-12 (2021)

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 特に2つ目の論文では、アタマジラミの変異株について他に報告のない型(ハプロタイプ)の存在も見つかり、これをピレスロイドとイベルメクチンを合わせた治療法の効果と合わせて報告しました。変異株のタイプを知ることは、アタマジラミ症の地理的伝搬を知る上で重要な情報になると考え、そのことを論文上にも記述しています。

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 上の2つの研究で新たに見つかったアタマジラミの変異型。Sato et al. (2021) https://doi.org/10.1002/cia2.12149 のFig. 2に記載しました。


 なお、ここで効果を検証した「イベルメクチン」は河川盲目症の原因である回旋糸状虫(オンコセルカ)の治療に使えることで、大村智博士の2015年ノーベル生理学・医学賞受賞にもなった薬。その後、小茂田先生らの研究で疥癬への適応が見つかった薬でもあります。アタマジラミ症につても、いきなり最適な治療法を見つけるのは難しいとしても、今のそれより良いものが社会に提供できることに繋がってほしいと思うばかりです。

 小茂田先生には、私が薬学部を離れても薬学の話を聞く機会に、共同研究で意義深い結果まで見る機会までいただきました。その話をちょこっと書き起こして、先生にいただいた有難いご縁への感謝の意を表したいと思ったところです。