コンピュータ支援薬物設計、マイトトキシン合成研究(AIMECS11参加報告)

 今日は、AIMECS11(第8回AFMC国際医薬化学シンポジウム)に参加してきました。私が普段取り組んでいる研究とは少し分野が異なる化学系のシンポジウムです。その私にとって最も興味深かったのは、"QSAR, CADD, Informatics" のセッションでした。

※QSAR: 定量的構造活性相関(quantitative structure-activity /affinity relationship)
※CADD: コンピュータ支援薬物設計(Computer-Aided Drug Design)

 このセッション、口頭発表はいずれもアカデミック研究者による発表でしたが、ポスター会場では多数の企業の研究発表がありました。業界ではコンピュータを活用した活性の予測やシミュレーションの技術が進められ、コストのかかる生物試料を用いた実験を減らすための工夫が、今まさに進んでいるのでしょう。化合物の薬効だけでなく、医薬品開発のネックになる副作用発現を予測するコンピュータ解析技術の発表もありました。

 私も、この中に混ざって "Application of microarray data analysis to investigation of therapeutic targets of endometriosis" というタイトルで研究発表を行ってきました。



 発表では、"Computer-aided" で化学(構造)的データだけでなく生物学実験データも医薬品開発に活用できる例を示しました。参加者の求める者とは少し違う感は否めませんでしたが、それでも研究対象とした化合物(マクロライド)や生物学実験手技について情報交換をすることができたので、良かったと思います。

 それにしても、どうにも私は、A0のポスターよりもA4を貼り合わせたポスターを作る方が好きです。今回A0のポスターを作らなかったのは、完成が自宅を出る20分前でA4でしか“作れなかった”からではありますが。(個人的には、A0だから立派なポスターであるということもないと思います。)

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 今日は他に、お昼過ぎにあったK.C. Nicolaou氏によるプレナリーレクチャーが強烈でした。

 PL-2 "Total synthesis of biologically active molecules" by K.C. Nicolaou

 素人目にもスケールの大きさを感じざるを得なかったのは、マイトトキシンの合成研究。マイトトキシンは、「構造式が判明している最大の天然有機化合物」なのだそうで、分子を構成する炭素の数は164!(分子式はC164 H256 O68 S2 Na2で、分子量は3422。) 不斉中心は98個。このような分子を全合成するなどと考えると気が遠くなりそうですが、その研究はしっかりと進んできているそうです。この件を、佐藤健太郎氏も有機化学美術館・分館で2008年に解説していますが、その記事は以下の文で締められています。

 マイトトキシンができてしまったら、全合成という分野はもう終わりなのか、という一抹の寂しさを覚えないでもありません。もちろん他にもやることはたくさんあるのは当然ですが、最高峰、最難関が征服されてしまうと、有機合成は一つのピークを迎えることになる気はします。化学者は今後何をすべきであるのか、改めて考えてみる時期――なのかもしれません。
 (有機化学美術館・分館、2008年6月7日『最後の怪物・マイトトキシン攻略開始』より)

 この国際シンポジウムの会場は、東京(新宿)の京王プラザホテル。とにかく豪華です。12月初日の明日も、ここに行ってきます。