T細胞の活性を調節するメカニズム

免疫応答の強弱を決定する分子メカニズムを解明
- T細胞補助刺激受容体CD28のミクロクラスターを発見 -

理化学研究所


◇ポイント◇
・ CD28ミクロクラスターが免疫細胞(T細胞)の活性化をポジティブに制御
プロテインキナーゼCθを呼び寄せ、サイトカイン産生や細胞増殖を劇的に増強
・ 新たな免疫治療や画期的な薬剤開発に期待
理化学研究所 プレスリリースより)

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 ヒトなどの生物が、病原体などの異物(外敵)から自身を守るために持つ「免疫」というメカニズム。そこでは、異物を発見して認識した細胞が、異物を処理する仕事のできる細胞に、その敵の存在を知らせる反応が起こります。この記事でいえば、その「異物を処理する仕事のできる細胞」が「T細胞」です。

 しかし、このT細胞の働きが自身に害になってしまうことがあります。その結果起こってしまうのが、アトピーなどのアレルギー疾患であり、リウマチなどの自己免疫疾患です。著者らはこの記事で、T細胞を刺激(活性化)するメカニズムの一部を明らかにしたことを報告しています。将来的には、T細胞を介した免疫機能を調節することにより、様々な病気の治療法を開発できるだろうと展望を述べています。

 この展望が期待される一方、ヒトの体の一部だけをターゲットにした治療法の開発は、そのターゲットが病巣であっても、未だ非常に困難です。たとえば、がんの治療でがん細胞を死滅させようとしても、その治療法は正常な細胞も攻撃してしまうため、なかなかその治療はうまくいきません。この記事でも、著者らは「3. 今後の期待」で一つの例を示しています。リウマチの治療を目的に、抑制性のT細胞(免疫反応を抑制させるT細胞)の働きだけを強めようとしたにも関わらず、他のT細胞(免疫反応を強めるT細胞)の働きも強めてしまって失敗に終わったという、イギリスでの治療薬開発の例です。


 脂質ラフト上で生じる、免疫シナプスのダイナミックな反応。その詳細を明らかにして人の手で調節できるようになるときは来るのでしょうか。
 そう、「抗原提示」や「リガンドと受容体の結合」で起こる反応は、教科書に載っているような「鍵と鍵穴」といった無機的なものではなく、とても流動的でダイナミックなものです。『私は生物と無生物のあいだ』(福岡伸一著)を読んで以来、やっとそのイメージができるようになりました。

 


  生命とは何か? それは自己複製を行うシステムである。

 生命現象は神秘ではない。生命現象はことごとく、そして余すところなく物理と化学の言葉だけで説明し得るはずである。
(エルヴィン・シュレーディンガー

 二十世紀に出されたこれらの意見に対して、筆者は、

「生命とは動的平衡にある流れである。」

という意見をぶつけていく。

 時間という乗り物は、すべてのものを静かに等しく運んでいるがゆえに、その上に載っていること、そして、その動きが不可逆的であることを気づかせない。

 この一節が印象的でした。

 

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