第14回国際免疫学会議‐0,1日目参加報告

昨日から、国際免疫学会議に参加しています。
始めの2日間の参加報告を兼ねて、
いくつかの演題を紹介します。

Keynote Lecture
"Micro RNAs and the immune system"
Dr. D. Baltimore (California Inst. Technol., USA)

開会式での記念講演はDavid Baltimore氏。
逆転写酵素の発見による、1975年の
ノーベル賞生理学医学賞の受賞者です。
また、同年のアシロマ会議(遺伝子組換え技術の
利用に際しての指針を示した会議)の
まとめ役の一人でもあります。

講演の内容は当時の研究ではなく、免疫系における
micro RNAの知見についての紹介でした。
有名な話かもしれないのですが、私にとっては、
既にここまで分かっているのかという
驚きを感じました。

とくにmiR-146とmiR-155についての知見について、
以下の論文の紹介がありました。
・miR-146による自然免疫の抑制
 (Tagonov KD et al. PNAS 103:12481, 2006)
・miR-155による制御性T細胞(Treg)の維持
 (Lu LF et al. Immunity 30:80, 2009)
・miR-155のノックアウトによるTh17細胞の欠損?
 (Ryan et al. Immunity, in press? ※ 要確認)

講演中にあった、同氏の次の言葉が印象的でした。
「Micro RNAは、環境に対して素早く応答し
 遺伝子発現以降の生命現象を調節できる
 注目すべきregulatorである。」


Master Lecuter 02
"Innate Immunity in Drosophila"
Dr. J. Hoffmann (France)

昆虫はリンパ球系を持たず、
自然免疫系しか持たないのだそうです。
そこに注目すると、昆虫は
感染に対する自然免疫応答について研究する上で、
有用な研究対象なのだそうです。
昆虫と哺乳動物の違いにかなりの注意が
必要になるように思うのですが、
面白いことを考える人もいるものです。


Symposium 2-1-1
"Construction of Tregs from conventional
 T cells by targeting IL-2 and CTLA-4"

Dr. S. Sakaguchi (Kyoto Univ., Japan)

自己免疫を含め、“過剰な”免疫反応を
抑制するように作用すると言われる制御性T細胞(Treg)。
これは、CD25+Foxp3+であるという特徴があります。
このFoxp3が、免疫機能を制御(抑制)するような
性質をこの細胞に持たせていると言われています。

この講演は、T細胞にこのような(抑制性の)性質を
Foxp3- のまま誘導することができるのか、
という内容でした。
もしこれが可能になれば、自己免疫疾患を始めとする
複数の疾患の治療に応用できるかもしれません。
とても興味深い内容でした。

しかし、一方で次のような講演もありました。


Lenchtime Lecture 1-7
"Human Th17 cells"
Dr. S. Romagnani (Univ. Florence, Italy)

ここ10年に満たない間に研究の進んだ、
“新しいT細胞のサブセット”、Th17とTreg。
このうち、種々の免疫反応を亢進させるといわれる
Th17について、ヒトとマウスではこんなに違うのだ、
という内容の講演でした。

生物種の違いによる様々な違いに対して
注意を払って研究を行うのは、当然のことです。
それでも、この分野の研究が
マウスを観察するものばかりで進められていることに
警鐘を鳴らす、刺激的な講演でした。

各々の細胞の性質だけでなく、ヘルパーT細胞の
分化のメカニズムさえも違うようです。
この辺りの知見は、これからまたさらに整理され、
共通認識がどんどん変わっていくように思います。
その結果、免疫関連疾患やアレルギー疾患に対して
新しい考え方に基づいた治療法(対処法)が
今後出てくるのではないでしょうか。

最後の質疑応答では、
「ヒトのナイーブT細胞から
 シンプルな方法でTregを分化させることは、
 (マウスの細胞とは異なり)非常に困難である」
ということも述べられていました。



写真は、昨日の午後に行われた開会式です。

私自身の研究テーマは、最近免疫学を
離れてきてしまっているので、
今回の学会で講演を聴いていると、
「2年前から進んで、そんな話になっていたのか!」
と感じることが多いです。

私の研究発表は明日(24日・ポスター)です。
今回の発表の内容は、ちょっと無理矢理に
免疫につなげた感がありますが、頑張ってきます!

研究テーマが“免疫”から少し離れたとしても、
今もこの分野への強い興味を持っていますし、
そこに研究の視点も置き続けたいと思っています。