科学技術界のグローバル化を「ガチ議論」@第55回生化若手夏学

 2015年8月30日、第55回生命科学夏の学校の「徹底討論!科学技術界のグローバル化」で、パネリストの1人として登壇してきました。

 なんと言うか、難しかったです。グローバル化とかグローバル人材というのが何なのかを共有することが。

 グローバル化とは、地理的距離、言語の壁、文化や前提の違いによる不理解がなくなっていく現象です。グローバル人材とは、それらの障害の向こう側にも通用する価値を生み出せる人のことです。少なくともこれが、私の考えるグローバル化であり、グローバル人材です。

 地理的距離は主に交通手段の発達とITにより、言語の壁は自動翻訳の速度と精度の向上により、急速になくなりつつあります。
 文化や前提の違いはかなりの曲者で、これを乗り越えられるか否かは今もかなりの部分、人の能力に依存します。これも今後の技術革新により、やろうと思えば誰もが乗り越えられるものになるかもしれません。しかし、少なくとも今は、そういう状況でないと言えるでしょう。

 グローバル人材は、英語ができればなれるってわけじゃないということは、多くの参加者にも理解してもらえていたようです。
(ちなみに、私の身近にTOEIC 970点の方がいます。仕事もデキル人ですがグローバル人材ではありませんし、それになることにも興味はないそうです。そういう生き方も当然あります。)

 繰り返しますが、グローバル化とは理解を妨げる障害がなくなっていく現象であり、その障害の向こう側にも通用する価値を生み出せる人がグローバル人材です。

 そう考えると、分かってもらえるでしょうか。
 他国・・例えばイギリスで仕事をしたいとか、スウェーデンアカポスを得たいとか、他国の研究者を多数受け入れて研究したいとか、そういう実績を引っ提げて大学教授になりたいとか。そういう目的を果たすための選択肢として「グローバル化」が存在するのでなく、グローバル化ってのは技術を基盤として身の回りで起こっていることなんですよね。

 本音を言えば、そこだけを何とか共有した上で議論したかった。

 そして、議論のポイントを「グローバル化する世界の中で、自分が生み出せる『価値』をしっかり評価できる/捉えられるようにするために、何を意識したらいいのだろうか?」という点に絞りたかったと思う。そしてもっと言えば、文科省の方々がそういった観点で、例としてのスーパーグローバル大学創成支援などのビジョンを語ってほしかった。その上で次の一手を、産学官各々の立場から意見し合える場所にしたかったと思います。
 そこは結果的にし切れなかったと感じていますが、そういったことを、参加者一人一人に考える材料として提供できていたら幸いです。

スーパーグローバル大学に37校 国際化へ文科省選定(2014年9月26日、日本経済新聞
スーパーグローバル大学等事業日本学術振興会HP)

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 自分の実現しようとすることや、生み出そうとするものの価値を最大化するために、自分がどういったことを理解したらいいのか。それも目的ベースで突き詰めて選べて、初めてグローバル人材への第一歩です。グローバル化によって、地理的ないし言語その他の障壁を取っ払う技術を容易に使えるようになった中で、issue-drivenにこだわるチャンスを私たちは得たのです。
 逆に、そのグローバル化によって価値の下がったissueと上がったissueがあるってことを見逃してしまうと、痛い目に遭ってしまうことがあるのです。

 で、具体的事案を挙げていくと、イギリスで仕事をしたいとか日本でアカポスを得たいという希望は当然あっていいんですけど、そのときにこういったことを問い直す必要があるわけで。

・自分がそこでポジションを得て、どんな価値を生み出せるの?
・自分がその価値を生みだすのに、その場所がベストなのか?
・自分がそこで雇用される上で、自分は何を差し出せて、どういう形で雇用されることを望んでいるの?
・もしくは、自分がどういう新しい職場を作れるの?

 こういったことを考えるときに、グローバル化によって起こった価値の変化、環境の変化を意識しておきたいわけです。その変化を見逃さずに、自分が生み出す「価値」をしっかり評価できるだろうかと。当日の議論から、そういったことについて参加者してくれたそれぞれの人が考え、実現するための材料を少しでも拾ってくれていたら嬉しいと思います。
 「グローバル」は参加者各々が色んなことを想像する言葉だったので、単なる討論形式でなく、ワークショップ形式も良かったかもなどと思いつつ。

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 目の前の一手としてできることとして、自分の考えたり言葉にしたりできることの価値を計るために、それを表現してフィードバックを受ける機会を活かし切ってほしいと思います。言葉にしてみて、周りから直接返ってきた反応や感じた雰囲気をビンビンに感じ取って、「あれ、自分が本当にしたいのはそういうことだったっけ?」「自分が本当に言いたいことは表現できていただろうか?」と、いつも自省できるようになってほしい。文化なんかが違ってもくそくらえ、理解し合って問題に取り組めるようになってほしいと思います。
 その上で、「どこで勝負できるのか」を考えることが重要なのであって、「どこに行っても勝てるようにしなきゃ」と思う必要なんてないんですよね。
 それでこそ将来、目的の問題解決・価値創出のためのベストのチーム編成を実現できるようになると思うのです。私もまだまだ道半ば(というより、始まったばかり)ですが。

 自分の持つ技術の価値、アイディアの価値、ビジョン、やりたいこと、できること、できないこと。それを、文化や前提の異なる人に理解してもらえる力があるか? 逆に、相手のそれを理解できるか?
 文化や前提の異なる人たちと理解し合い、新しい価値、さらには新しい分野を切り拓くチャンスをモノにしていってほしいと思います。国際共同研究しかり、分野横断的な研究しかり、産学連携しかりです。


 撮影は、最前列で参加してくれた片桐友二さん。(右端が私)

 今年も温かく迎えてくれたオーガナイザーや実行委員の皆さん、どうもありがとうございました。

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