科学的判断に内包される「制度知」

 今日はここで、一つの論文を紹介します。ある不確実性を伴う事象について、リスクを管理するための制度を策定する(その時点での結論付けをする)に至るまでの科学的議論のされ方について分析したものです。
 この論文は、「科学的知見に基づいて実際の社会はこう動いているんだ!」という発見をもたらしてくれる面白さが、科学技術コミュニケーションの分野にあると、改めて気づかせてくれるものでもありました。

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 畠山・立川「不確実性をめぐる科学者コミュニケーションと制度知:遺伝子組換え食品の安全性評価を例に」科学技術コミュニケーション 11: 18-27 (2012)
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 この論文では、データに不確実性が存在する状況の中での科学的議論において、議論の収束・結論付けがどのようにして行われるのかが分析されています。議論の例としては、遺伝子組換え食品の安全性評価の制度についての内容が取り上げられています。

 結論として本論文は、科学的議論において「安全性評価や認可(制度)の一貫性をどのように担保するか、科学的判断と共に制度の運用面での判断が考慮されている」と述べています。これは「議論の収束には、科学知だけではなく、制度知の援用も重要であるといえる」とも言い換えられています。

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 この論文では、制度知の援用が「行政の弊害である『前例重視』とも通じる(が、規制との関連上避けて通れない)」ことや、「新たな知見や手法採用の足かせになることもある」ことにも言及しています。読み手である私も、当然その点は気になります。しかし一方で、不確実性を伴う制度の策定にあたってはこのような議論の方法が最適であるとされていること自体が、私は興味深いと思いました。

 とはいえ、この件について今の私に体系立てた考察ができるわけではないので、ここでの記述はこのメモの程度に留めておきます。論文中では、上の結論についての具体的な説明がなされていて、読み手の理解を促してくれる点も好印象です。結びに書かれている結論も重要な示唆に富んでいて、興味深いと思われるものでした。

 このジャーナル『科学技術コミュニケーション』の論文には、他にも興味深いものがあるので、今後も読み進めていきたいと思います。