産業構造改善のビジョンは将来を向いているか

 一昨日(2011年12月7日)、理科大の教養講座で経産省出身の塚本修先生(本学の特命教授)の講演を聞く機会がありました。

 塚本先生のお話は「これからの日本、何で稼ぎ何で雇用するのか」と題した、最近の経済停滞と日本が抱える構造的問題、そして新しい産業構造の方向性についてのものでした。いろいろな意味で興味深かったです。
 その内容は大まかに、次の3点であったと私は解釈しました。

 1) 以前の日本は外貨を製造業で獲得する一方で、雇用は地域内需型のサービス業が多くを占めていたが(日本の産業構造全体の問題)、今後はサービス業を国外に出すことでの外貨獲得も目指していること。
 2) 今以上に国外に出すものとして、課題解決システムやアフターサービスといった付加価値に可能性があること。
 3) 日本企業は業界内の企業どうしで“消耗戦”になってしまう例が少なくないが(日本国内のビジネスモデルの問題)、プロジェクト単位での連携を実効性のあるものにしなければならないということ。


 関連情報の詳細は経産省の部会“産業構造ビジョン2010”のウェブページ内に記されていたのでそちらに譲りますが(→こちら)、上の3つを目指すために最近、「先端的モデルクラスター」や「先端イノベーション拠点」を作る取り組みが行われていたことを私は知りました。

 上の取り組みは、少しずつ成果を出し始めてきている段階であるそうです。それは、少なくとも将来の日本の産業構造の方向性を見定める上で悪くないことでしょう。

 ここで私は、一つの疑問を持ちました。このような事業は成果が出始めているとはいえ、そのスピードはどの程度であるのだろうかと。その変化の質や速度は、官庁が議論して事業として進めたことで、少しでも向上したのだろうかということです。
 言葉を加えると、こういった事業の評価がなされるときに、それは官庁が“何もしなくても”起こったであろう変化と比較して行われているのか、という疑問を私は持ったのです。

 何か手を加えたときに起こった変化を、手を加える前の状態と比べて評価することは不可能でないでしょう。しかし、事業としてその「手を加えた」後に、その効果を「手を加えなかった場合」と比較して判定するのは容易ではないと想像されます。
 (このような比較が行われている例をよくご存知の方がいましたら、教えていただけると嬉しいです。)

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 何か中長期的な事業や企画、プロジェクトを組んだときに、その効果が「あった」と喜ぶことは簡単です。しかしその効果は、時間の経過(とその間に自然と蓄積される人類の知恵)とともに起こる変化と比べても有効であったといえるでしょうか。効果の判定をするときに、その基準がいつも“過去の世界”であっていいのでしょうか。将来の“現在と現在”との比較を可能にするために必要な将来像は、どのように想定されるものなのでしょうか。

 と、好き勝手に書いてしまいましたが。一昨日の教養講座は、日本の産業構造やビジネスに対する官庁の関わりを知ったことの他に、こんなことを考えさせられる点で面白いものでした。ここに書いた私の疑問は、正確にいうと講演を聞いた直後にはもやもやとした違和感として私の中に突っ掛かっていたものです。この中身が、2日間経ってようやく少し整理することができました。

 一緒に講演を聞いていた人は、どんなことを感じたでしょうか。それも、少し興味のあるところです。