デキサメタゾン投与と次世代個体の高血圧発症に関する論文

昨年末に、「疾病の発生学的起源説」に関する
知見を示した論文を簡単に紹介しました。
(→ こちら
そのうち、弊ブログの読者であるかもめさんから、
次の論文についての概説を依頼されていました。

 David O’Regan, Christopher J Kenyon, Jonathan R Seckl and Megan C Holmes:
 Prenatal dexamethasone ‘programmes’ hypotension, but stress-induced hypertension in adult offspring.
 Journal of Endocrinology 196: 343-352 (2008)

かもめさんにはメールでお送り致しましたが、
ここでも紹介させて頂きます。
ご依頼を頂いていた抄訳(下記)に加え、
いくつか注記したい点を、「Read More」以降に
上げていきたいと思います。
(2010年5月26日更新)


題目和訳:
 『デキサメタゾンの胎児期曝露は次世代個体の低血圧とストレス誘発性高血圧を“規定”する』


抄録(一部改):

 出生時低体重は、成人期における高血圧発症のリスク因子である。その因果関係となるメカニズムは不明であるが、胎児期におけるグルココルチコイドの過剰曝露が関係しているのではないかと考えられている。著者らは、ラットを用いた以前の研究により、デキサメタゾン(合成グルココルチコイド)の胎児期曝露が出生時体重を低下させ、成長後の高血圧のリスクとなる可能性を示した。本論文は、この高血圧の病態の詳細と、その発生の原因を明らかにすることを目的としたものである。

 本研究では、ラットの血圧を遠隔測定法により測定した。この方法は、測定の際にラットに与えるストレスが小さいという利点がある。デキサメタゾンの投与は、妊娠ラット(Wistar系)に対して妊娠後期に連続7日間行った。デキサメタゾン(は、4%エタノールを含む生理食塩水に溶解させ、1日あたり・体重1kgあたり100 micro g(デキサメタゾンの量として)皮下投与した。

 デキサメタゾンの投与を受けたラットからの産仔において、出生時体重の減少(14% 低下)が認められた。成長後の出生仔(7~8 ヶ月齢)では、基礎血圧の低下が生じた一方、中程度又はそれ以上のストレスを負荷させた際の血圧上昇がより大きくなる現象が示された。また、デキサメタゾンの胎児期曝露を受けた出生仔では、一度のストレスにより誘発される高血圧が長く持続した。この出生仔では、アンフェタミン(全身性のカテコールアミン放出促進)の投与による血圧上昇が、より大きく起こることも示された。さらにこの出生仔では、ノルアドレナリン(カテコールアミンの一つ)などの血管収縮剤に対する血管(平滑筋)の感受性が亢進していることが示された。

 本論文で示した以上の結果は、デキサメタゾンの胎児期曝露が次世代個体に交感神経の応答性の変化を生じさせ、ストレス誘発性の血圧上昇を増強させることを示唆している。


※ 注記のリクエストがございましたら、
 コメント欄か下記のメールアドレスにご連絡ください。
 runner_fromgoka@yahoo.co.jp (U-runner)

※ 2010年5月26日、注記予定の項目を4つ挙げました。
 (回答済み x1、未回答 x3)


注記

1)
Q. デキサメタゾンの「母親への投与」は、
妊娠中の投与か。それとも、妊娠する前からの投与か。

A. 妊娠後期の投与です。
著者らは、妊娠母体中のグルココルチコイドが、
胎児に直接的に影響を及ぼすことを想定しています。

2)
Q. デキサメタゾンや、グルココルチコイドとは何か。
この投与量はどの程度のものか。

3)
Q. ストレス性高血圧とは何か。

4)
Q. 高血圧や血管収縮と、
交感神経やカテコールアミンとはどう関係しているか。