システム生物学 ~国際生理学会(IUPS)2009 2日目~

 今日から、今回の学会の講演、シンポジウム、その他の発表が始まりました。

 ポスター発表の会場で、ネパールから来た同年代の学生さんと、少し親しくなることができました♪ 同年代なのに、大人っぽくて優しくて、笑顔も素敵な男でした!(変な意味はありません。笑) 大人っぽく見えると、頼れる人に見えていいなと思います。
 私の発表(金曜)のときに来てくれると言っていたので、・・・また会いたいものです。


 さて、今回の学会で私が楽しみにしていたテーマの一つに、システム生物学があります。その内容と今日の講演を、少し紹介してみたいと思います。


システム生物学の原理と生理学の未来
Denis Noble氏
Special Lecture
"Principles of systems biology and the future of physiology"

参考文献:
 Bassingthwaighte J, Hunter P, Noble D:
 The Cardiac Physiome: perspectives for the future.
 Exp Physiol 94: 469-471 (2009)
 他、多数。

 DNAの発見、そこからmRNAが転写され、翻訳されることでタンパク質が細胞内で合成されるというセントラルドグマという考え方の登場以来、生物学(というより生化学)は、これを中心として動いていると言っても良いと思います。しかし、個々の遺伝子やタンパク質に注目するだけではなく、その統合としての生物体を直接捉えようとする分野もずっと昔からあります。

 「システム生物学」(Systems biology)

 これが何かという説明は、Wikipediaの記事をそのまま使わせて頂きます。
 『生命現象をシステムとして理解することを目的とする学問分野。システムの構成要素の同定を目的とする網羅的な解析や、システムの動的な特性を解明することを目的とする研究が混在している。最終的には生命現象のシミュレーションもこの範疇に含まれるが、現状では各構成要素(タンパク質ネットワークなど)をバイオインフォマティクスの手法により、地道に調べているような段階である。』
 生物学・生理学に、工学や情報科学などとの連携が必須の学問です。

 今日、これに関連するシンポジウムが開催され、一部を聴いてきました。私が予想していたよりも、従来の生化学的手法にも頼っており、私が目指しているものに近いように思いました。私の発表は金曜なので、しっかり準備して、意義あるディスカッションをして帰りたいと思っています。

 とはいえ、まだこの学問は立ち上げ段階か、もしくは始められたばかりのプロジェクトが多く、実のある成果が出てくるのはこれからなのだろうという印象を持ちました。しかしそれでも、“生物学者”がセントラルドグマしか中心に考えられないとしたら、今後意義のある成果を出してくるのは、統合的な考えをある程度以上持てる人・グループだけになってくる可能性もあると思います。

 Denis Nobel氏の講演は、彼のこの分野への想いが十分に伝わってくるものであり、この学問の必要性を訴えるものでもありました。言葉のいくつかを書き残しておきたいと思います。

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 Genes do nothing on their own. They are only on databases.
 遺伝子はそれだけでは何もするわけではない。データベースの上に載っているだけである。

 The "central dogma" of biology is insufficient or even incorrect. What prevent inheritance of acquired characteristics?
 生物学における「セントラルドグマ」は不十分であるか、不正確でさえあるかもしれない。何が獲得形質の遺伝を阻止しているのか?

 Gene ontology will fail without higher-level insight.
 Gene ontology(遺伝子分類体系)は、より高いレベルで見ないと失敗する可能性がある。

 What's the relation between genes and function? What precisely is the relationship between genome and phenotype?
 遺伝子と機能との関係は? ゲノムと表現型との正確な関連性は?

 The 'genetic differential effect' problem...

 Most gene knockout and mutations are buffered.
 ほとんどの遺伝子ノックアウトや変異は、それだけでは表現型の変化をもたらさない。

 It doesn't make sense to divide things up between 'immortal' genes and the transient, dispensable 'vehicles'.
 「不死の」遺伝子と、一時的で不必要な「車」を分けて考えてしまうと、意味がなくなってしまう。

 

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