インターネット上での一般用医薬品(※)の販売を禁止した厚生労働省の規制(省令)に対して、薬事法の範囲を超えており無効であるという判決(上告の棄却)が、2013年1月11日に最高裁判所でなされました。
(※ 一般用医薬品=OTC: 医師による処方箋を必要とせずに購入できる医薬品。簡単に言うと、ドラッグストアで販売されているもの。)
この問題には私も注目しています。
個人的には、一般用医薬品の「ネット販売」は「いま禁止しようともせずとも、近い将来許可・実現されるであろうもの」であり、その上でどう販売体制を管理するかを考える必要があると思っています。
そういう意味で、この「ネット販売」を「禁止すべきか否か」というのは、以前から私の注目する議論ではありません。もっと言えば、近い将来に多くの一般用医薬品は、インターネットで販売される方向に変わるだろうとも思うのです。
今後、私たちは世の中の多くのものをインターネットで買えるどころか、「物を買うのはほとんどインターネット」というような時代が、そう遠くない時に来るでしょう。“そのとき”にも、医薬品だけは対面販売といった“時代遅れ”な供給がなされるのでしょうか?
私には、そのときにしっかりと安全性を確保しながら医薬品を販売できるよう、今から「ネット販売」を少しずつ進めるべきなのではないかとしか思えません。そして、この供給ルートで安全性を確保するというのはどういうことなのか、実際にどういった販売システムをネット上で整備すべきなのか。議論されるべきはその点なのではないかと思うのです。
医薬品の「ネット販売」にリスクを伴うことは確かです。まず、副作用の問題があります。多くの人が安全に使える薬でも、既往疾病など人によって使うべきでない(使用が安全でない)ものもあります。薬の安全な使用についての情報が、十分に購入者に伝えられる形が必要であることは言うまでもありません。
しかし、それを理由に「ネット販売」禁止というのは、私には理解できません。大学での講義では、ネット販売を否定する先生の御言葉も聞きましたし、実際に厚生労働省も禁止をしていました。しかし、私はそれに賛成はできませんでした。
リスクを回避するために、本当に働きかけるべきはどこなのか、そこに働きかけるチャネルをどう整備できるか。これを議論して対応を進めることこそが、安全性を確保しながら利便性を向上させることなのではないでしょうか。この点にも思うところはありますが、今日はこの辺りでやめておきます。
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話は変わりますが、何かの代金を支払うのに用いるインターネット決済は、ネット上での情報の授受にリスクがあるからという理由で禁止すべきでしょうか? 食塩やウォッカなどは、簡単に手に入る程度の量で大きな刺激や生理作用を及ぼしますが、これらも対面販売以外では購入できないようにすべきでしょうか?
私たちは、リスクを「定量的に」捉え、判断することを求められています。
(この本は、先日ここでも紹介しました→こちら。私の意図するところが、著者とズレていなければいいのですが・・・。)
時代の変化とともに、物の供給のされ方も変わります。次の時代の社会は、今の私たちの想像の範囲を超えて大きく変わっている可能性も十分にあります。
厚生労働省の担当者や薬剤師(私もですが)の仕事は、一般用医薬品を対面販売のみに規制するのではなく、次の時代の販売方法を実現するための知恵を出すことではないでしょうか。
(※同日追記: ただし、現行の法律(薬事法施行規則)では「第一類医薬品については、医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師に、・・・対面で販売させ、又は授与させなければならない。 」とあるので、以上は一つの極論に過ぎません。)
と、思い切って書いてみましたが。
昨日の判決には、そんなことを改めて考えさせられました。
なお、今回の判決が出た直後に「インターネット販売を再開」と言っていた販売業者には、自身に有利な判決が出たからといって浮かれずに、検討すべきものを検討する姿勢を見せてほしいところです。
※同日補足: 最高裁の前の東京高裁の判決は、「薬事法は省令で医薬品ネット販売を一律に禁止するという強度な規制をすることまで認めていない」ということに基づくものであるということです。
→ケンコーコムの行政訴訟、逆転勝訴の理由と最高裁の行方(BLOGOS、2012年05月23日)