2013年4月施行の改正労働契約法について考えてみた

坂本正幸弁護士解説-改正労働契約法は大学にどう影響を与えるか(researchmap、2012年12月21日)

 この法律は、任期付きポジションの少なくないアカデミアの研究職とも無縁でないとのこと。基本的に「有期労働契約くそくらえ」というスタンスの私ですが、それでもこの業界にいる者として知っておかなければならないと思い、読んでおきました。
 この法律が必要なのは、個人が有期契約を良しとするかどうかではなく、労働者の権利を守るため、もっと言えば、雇用者に労働力が不当に搾取されることを防ぐためです(*1)。そう考えるとこの法律は、雇用する側も雇用される側も、有期契約の雇用・労働に関係する可能性のあるすべての人が知ることに意味があるでしょう。

 まず、「基本的な改正ポイント」として、冒頭に紹介したリンク先(のQ2)には、以下のように記されています。
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 「(2013年)4月1日以降に開始した有期労働契約の通算契約期間が5年を超えていて、契約が1回以上更新された場合、労働者に無期労働契約への転換権が発生する」こと。そして、「無期転換後の労働条件を、使用者が合理的な理由なく低下」させることを禁止すること。
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 ほぉ、だから結果的には、法人が “無期雇用したくない(できない)人” を5年間雇用しないことに執着するところも出てくるわけですね。それを何とか、合法的に進めていこうと。なるほど。
 と、この文をあまり心からでなく書き留めていたら、この論調の記事がいくつかあって、ただ事ではないと思いました。

 まずは半年以上前、今年の春に議論がなされたときの資料です。
科学技術政策担当大臣等政務三役と総合科学技術会議有識者議員との会合総合科学技術会議、2012年4月19日)

 上の会合のメモが、次のページで紹介されています。
総合科学技術会議で労働契約法改正が議論される(科学政策ニュースクリップ、2012年4月22日)

 終盤でこの問題に触れられている次の記事も、読み応えがあります。
奈良先端科学技術大学院大学・学長からのメッセージ「リサーチ・ユニバーシティ その2」(2012年9月6日)

 こんなものも。
研究職をめぐる問題(おおやにき、2012年10月15日)

 正直に言うと、論点がずれてはいないかとも思うのですが
(そう自信を持って言うには私の知識が足りなさすぎますが)、たしかにそう思う人が少なくないだろうとは私も思います。多くの人がそう感じるという事実は、笑って見過ごせるものではないでしょう。

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 少し話を変えて、研究員の身分について。冒頭に紹介したリンク先・2ページ目のQ7ではこう解説されています。
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 「技術研究系の人材は、雇用ではなく「業務委託」に切り替えるという対応が考えられる」「研究室やプロジェクト単位で業務を委託しているという意味で、実際の内容としても業務委託という形態に合致する」。
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 これは、たしかに正しいと思うところもある一方で、研究員の独立性(科研費への応募可否など)の低下につながらないか、不安に思うところもあります。個人的には、ある研究課題から得られる試料をその研究課題にしか使わないのは効率が悪いことだと考えています。研究員の独立性の低下が、この辺りの効率の悪化につながらないよう願うところです。

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 国内の大学や研究機関での研究環境の状況を把握し、その改善を働きかけていくことは、国内の科学研究の発展のためには重要です。
 ただ視点を変えると、それと同時にその真っ只中にいる者(もしくはこれからそこに入りたいと思う者)にとっては、キャリア選択の際の分析力が求められているとも言えます。研究者として、自らのキャリアパスの分析もしっかりとしたいと改めて思います。

 また気になることがあったら追記します。

 (*1) 労働契約法では第一章第一条に、その目的を次のように定めています。
 「この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。 」(2012年12月現在)