なかなか「答え」を言わない私

 研究室で学生とディスカッションをするとき、私は「答え」をなかなか言いません。本当に言わないなぁ、と私自身よく思います。私なりに「答え」を持っていても、その内容を伝えないことが極めて多いです。これは、私が大学院生になった2006年頃から、いろいろな人に指摘されたことでもあります。

 ある研究課題で、ある実験計画を組んでそれを実施すると、良くも悪くも実験結果が出てきます。研究は、その結果を整理して考察することで進めることができ、ゴールに近づけることができます。簡単に示すと、下のようになります。当たり前のことですけどね。

・取り組む研究課題を決める
→ 実験計画を組む
→ 実験を進める
→ 実験データを取る
→ 実験結果を整理・精査する
→ 実験結果からそれが示す「意味」を考察する
→ 次に取り組む実験計画を組む。以下繰り返し。

 この過程で、ある結果をどれだけ考察するか、そして「どう考察して」研究を進めていくかはいつも重要なポイントになります。とくに私は、他の研究者よりもこの過程でいろいろな考えを出したり判断をしたりすることを重要視しています(と私自身は思っています)。
 しかし、その過程で私が考えた内容をすぐに学生に伝えることはまずありません。“すぐに”どころか、本当になかなか話しません。

 もちろん、話さない方が良いと思っているからそうしているので、今日はその裏にある私の考えについて書いてみます。
 とはいっても、次の4つがすべてなのですけどね。
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 ①実験結果(データ)を見てそれを整理・解釈する力を、学生(というより共同研究者)に付けてほしいと思うから。
 ②自身の解釈・考えの足りない点がどういう所にあるのかを、自身で見つけ出す力を共同研究者に付けてほしいから。
 ③見出した自身の解釈を、自分の言葉で表現する力を付けてほしいと思うから。
 ④そもそも「答え」、「解釈」として“正しい”ものは一つではないから。(私のアイディア以上に良いものを学生が出した例も、もちろんたくさんあります。)

 自身の考えを学内外の場で発表(表現)すると、様々な意見が返ってきます。その中には真っ当な意見もあれば、“的外れな”意見もあるでしょう。意見について、自分なりにいろいろな評価・判断をするでしょう。このときに一番重要になるのは、その意見が「自分にとってすぐに取り入れた方が良いもの」なのか「すぐには考慮に入れなくて良いのか」を判断することです。

 このとき、これを如何に判断できるかは、自分が自身の研究課題についてどれだけ考えているかに懸かっています。「どれだけ考えているか」というのは、言い換えると、自身の示したデータや自らの持つ展望をどれだけ“自分の言葉で”表現できるかということです。これができる程度にまで自らの考えを意識できることは、自分が周囲からの意見をうまく生かしたり取り入れたりするための必要条件であると私は思っています。

 逆に、自らの仕事や発言について自分自身で理解できていないと、人からの意見に踊らされてしまいます。そんな経験は私にも少なからずあります。そんな失敗を研究やその他の仕事でしないために、私は学生に、自身の考えをとにかく自分自身で組み立てて、自分自身で理解してほしいと思います。

 それを少しでも促したくて、私は上の①~④を実践しています。「答え」を言わないというのは、もちろん何も伝えないわけではありません。考えるためのヒントをいろいろな場面で、いろいろな形で示しているつもりです。私の周りの学生の皆さん、是非そのヒントを生かしてくださいね!

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 なお、私が「答え」を学生に話すことがあったとしたら、それは基本的に以下のような場合です。

 1)相手が、私の考え(私なりの答え)を聞いてもブレない「自分なりの答え」を持っていると思えたとき。
 2)時間的な制約などがあり、学生自身に考えてもらうことを“諦めた”とき。
 3)時間的な限界は近くないが、もう“諦める”しかないと判断したとき。
 4)あまり話したくないとき(笑)

 そして、似たような理由で私は、学生と一緒に進めている研究課題について学生以上にそのテーマやデータを「面白い」と言わないようにしています。(学生自身が自信を過度に失っている場面を除きます。)
 その面白さは学生自身に判断してほしい(学生自身に面白く研究を組み立ててほしい)と思いますし、そもそも面白いと思っていなかったらやってもいませんからね。

 私がなかなか「答え」を言わないのは、学生(というより共同研究者)の考える力と、その研究の発展の可能性を信じているからです。一方から、たとえば私からしか「答え」の発言のない共同研究があったとしたら、そこに“共同”で仕事をする意味はないとも思います。

 これからいろいろな人と、有意義な研究その他のビジョンを描いて、面白い研究発表をしていきたいものです。

 

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