原発震災と科学報道-SMCシンポジウム

 2011年9月24日、早稲田大学で行われたシンポジウム「原発震災と科学報道 記者と科学者の目から」(サイエンス・メディア・センター主催)に参加しました。2011年3月以来の福島第一原子力発電所事故以来、メディアや研究者が学んだこと― それは次のようなものであったのだということを、2人の登壇者のお話から感じました。

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柴田文隆氏(読売新聞科学部長)
 「原発震災と科学報道」
山本章夫氏(名古屋大学工学研究科教授)
 「福島第一原子力発電所事故とその報道」
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・メディアは、自身が複雑かつ緊急の事象を扱える体制をとれているか、ということ。問題の背景を理解できる科学記者の育成が急務であること。

・研究者は、世の中に対する情報発信のあり方が学術的“作法”に則ったもので良かったのか、ということ。科学の世界の「作法」と世の中の「常識」との相違を今以上に知っていなくてはならないこと。

 これらは、以前から分かっていたことなのかもしれませんが、今回改めて痛感されたことも事実です。大切なのは、抱える問題を打破するために、今回痛感したことから学んで各々が具体的に何をできるかということなのだと思います。


 福島第一原子力発電所事故が起きて以来、新聞・テレビの担当記者は、文字通り東電に貼り付き、泊まり込みで原発事故の経過を伝えてきました。一方で、我々受け手から見た事故関連の報道は、情報が十分ではなく、次に何が起きる可能性があるのか、現状の危険性をどう考えればいいのか知りたいところにたどり着かないもどかしさがありました―
 (当シンポジウムウェブページより)


 柴田氏は、メディアからの情報が不十分であると思われてしまった一つの要因が、「誰も真実を知らない状況にあること」であるとおっしゃいました。とにかくメルトダウンにしても、まだ確定的な証拠があるわけではありません。これは起こったと推定されるものの、まだそれを誰も“蓋を開けて”見てはいないのです。中が見られるようになり、より様々な証拠が掴めたときに、振り返っていつ何が起こっていたかが検証・公開されるであろうと柴田氏はおっしゃいました。
 世間で言われていることと違い、情報の海からメディアに載せるものを選択する現場にいた人の言葉には力がありました。

 山本氏は、今回の事故に関して専門家の情報発信が、“(以前の事故対応からの)学習効果”により偏ってしまった面があったことを指摘していました。それは、私個人としては以前に示した「取材を受ける前に知っておきたいこと」(2010年7月29日)とつながる部分が多く、大いに共感するものでした。
 また、山本氏がご自身が確たる知識をお持ちでないことに関してはハッキリと「それは私の答えられる種類の質問ではありません」と答えたり、「専門家ら外れるのですが」と言って参照情報を示す姿勢は、登壇者のあるべき姿としてとても勉強になりました。


 また、シンポジウムではこのような言葉も出てきました。一笑に付すことのできない問題です。

・政府として、今回の震災で菅内閣はあっけなく機能喪失してしまったという事実がある。政府は会社とは異なり潰れることは許されない。その点をこの国は考え直す必要があるのではないか。