取材を受ける前に知っておきたいこと

(※ 2011年6月8日、一部改。内容を整理しました。)

 2010年7月29日、東京大学で行われた「研究者・学生のためのメディア講習会2010 ~取材を受ける前に知っておきたいこと~」(主催: 東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報委員会)に参加してきました。

 私はこれに参加する以前から、昨年(2009年11月)の事業仕分けに関して取材を受けた際の反省点を整理し直しました。ここでは、私が取材を受けて得た教訓とこのシンポジウムで学んだこととを合わせて整理し、記しておきたいと思います。

1) 取材を受けて持った感想
2) 取材をする側とされる側双方の目的を理解する
3) 所属する組織やコミュニティーへの影響を理解する
4) 「目立つ」ことの弊害について
5) 取材を受けたことの影響について
6) 私(たち)が取材を受ける(た)理由


1) 取材を受けて持った感想

 まず、取材を受けてそれが放映されたことの感想は、

 「自分の伝えたいことを、マスコミを通して伝えてほしいように発信してもらうのは簡単ではない」

ということでした。取材する側は、ある程度どういう番組を作るという目的(企画)を持って取材をしに来ます。つまり、ある程度どのような意見を放映するかを初めから決めて取材に来ているのです。
 そのため、当然ながら放映される内容は取材を受ける側の意図しないように偏ることがあります。これは、当時少しは覚悟していたのですが、予想以上だったというのが正直な感想です。これは、初めてテレビカメラによる取材を受けた私にとって、とても勉強になったことでもありました。


2) 取材をする側とされる側双方の目的を理解する

 取材を受ける際には、こちらから伝えたいことをしっかりと発言する必要があるのは当然です。極端に言うと、こちらから伝えたいことだけがきちんと伝わるように注意すべきといっても過言ではないと思います。
 取材する側の目的は、視聴者や読み手に分かりやすいストーリーを作ろうとすることであるということもできます。取材する側は、作りたいと思っているストーリーに必要な発言を引き出そうとして、質問を振ってくることが多々あるのです。

 これに対して、取材を受ける側が不用意な答えをしてしまい、本当に伝えたいこととは少し違う考え方を話してしまったとします。
 そうすると、放映ではその部分の言葉だけが使われてしまうこともあるのです。編集により、前後の言葉を抜きにしてその言葉だけが発信されることが大いにあり得るのです。(これは、新聞記事などにしても同様です。)
 その結果、こちらから本当に伝えたいこととは違うことが強調される結果になり兼ねません。この点には、十二分に注意すべきだと思いました。

 こう書くと、取材する側とされる側とは対立関係なのかと思われるかもしれませんが、決してそうではありません。「取材する側が求めて(望んで)いる内容の中に、取材される側の意思をしっかりと乗せること」を目指して準備ができれば良いのだと思います。
 また、取材する側・される側のお互いの目的が果たされるために、お互いの関係がそうあるべきだとも思います。


3) 所属する組織やコミュニティーへの影響を理解する

 この点にも留意する必要があります。多くの場合、人は“型”で評価されてしまいます。そのため、ある組織などで所属している人がその肩書きとともにメディアで意見を発してしまうと、それがその人の属する組織などの全体の意見として捉えられてしまう危険があるのです。
 そこで、肩書きや所属名とともにメディアの取材を受ける場合には、その所属先の意思をよく確認しておく必要があります。つまり、以下の3点は最低限確認をする必要があります。

・取材で何を伝えるべきか
・逆に、何は伝えるべきではないのか
・所属や肩書きはどこまで出して良いか

 実際に、私が昨年取材を受けるにあたって、これがとても大切なことであると考えました。取材を打診されたのは取材の前夜(12時間前!)だったのですが、その短い時間にも、急いでこの確認を取って回ったことを記憶しています。


4) 「目立つ」ことの弊害について

 取材を受けるということが話題に上がるとき、「目立つ」ことの弊害をどう考えるかと聞かれることが度々ありました。私が、私自身が取材を受けることに関しての考えは、「ある意味での弊害は生じ得るが、それを理解した上で本来の目的を達成したい」というものです。

 コミュニケーションの道具(マスコミやウェブ)を利用する場合には、常に批判を受ける可能性があり、それに耐える覚悟も必要であると考えています。そう考えると、マスコミの取材を受けることには人により得手不得手があり、誰もが適任者となるわけではないかもしれません。私自身も、まったく適任であるとは言えないかもしれません。

 しかし、受けるべき批判は受けることが自分の勉強になり、自分の成長にもつながると思うので、機会があれば私は取材を「受けられる」準備をするつもりです。また、批判される可能性を理解することは、取材を受ける準備をできることにもつながるとも思います。
 そして何より、そういうものも受けとめて議論をすることが、コミュニケーションの道具を利用することのそもそもの目的であるとも思っています。少なくとも、私は今そういうスタンスでい続けています。


5) 取材を受けたことの影響について

 これについては、不明な点が多いです。本当は、どのような影響を社会に与えたかを検証して、次のチャンスを手に入れたときに生かせるようにした方が良かったかもしれません。
 しかし、それは決して容易ではなく、また、私自身の仕事でもないように思っています。それは、私自身の限界でもあるのですが。


6) 私(たち)が取材を受ける(た)理由

 私に今回のイベントの紹介をしてくださった方は、取材を受ける場合の理由は主に次の二つであるとおっしゃっていました。

・これまで関わりのなかった方に存在を知って頂くこと
・自分と近い境遇の方を励まし、元気を与えること

 これは、私の思いとよく重なるものであり、持ち続けたい思いであるとも思いました。

 今日のシンポジウムはとても勉強になるものでした。個人的には、何より昨年取材を受けたときの反省点を整理し直すことができたことが良かったです。このイベントを企画し、紹介してくださった方に心より感謝の意を申し上げます。

 次の記事も、よろしければご覧ください。
取材を受ける前に知っておきたいこと(2)‐ポイント集



※ 私は、シンポジウムの前日に演者の一人がこの企画の紹介をメールでしてくださったため、これに参加することができました。この方とは、今年3月の若手研究者合同合宿で初めて会っており、昨年の事業仕分けのときに、私の同様の取材を受けていた方でもありました。
 その方には、ご連絡頂きましたことを心より御礼申し上げます。