科学論文の無料公開の現状と課題

先日、科学論文を掲載する学術雑誌に関する
現状と課題に関する記事を紹介
しましたが、
(岩波『科学』、“学術研究というビジネスの裏側”)
同様のテーマがNature(2010年4月8日号)に
取り上げられていたので、紹介致します。

Open sesame
~Government influence favouring enhanced openness is rightly divertifying practices in science publishing.~

科学論文の無料公開(オープンアクセス)を
拡大しようとする力が強まっており、
これが科学出版を多様化しつつある。
出典: Nature 464: 813 (8 Apr 2010)

(以下要約、私の注釈も付記)


学術雑誌の維持費を、購読者ではなく
投稿者(執筆者)に負担させることで、
誰もが論文を無料で読めるようにしよう
という動きが活発になっている。
(※ 本来、科学論文は世界中の誰もが自由に
  読めるようにすべきという意見もあります。)

科学論文の無料公開の先駆者として、
Public Library of Science (PLoS)と
BioMed Centralがよく知られている。
(※ 私が共著者になっている論文が2件
  掲載されているPart Fibre Toxicol誌も
  BioMed Centralより出版されています。)

しかし、その発行料を投稿者に負担させる
システムには課題もある。
たとえば、PLoSは執筆者から徴収する投稿料を
当初予定していた額より倍増させることで、
ようやく雑誌の発行を継続させている状態である。
(※ 予定のUS$1500に対し、現状US$2900。)

一方、科学論文の無料公開を促す政府の力もある。
例えば、米国のNational Institutes of Health (NIH)は
発表した科学論文を一定期間公開するよう、
同国政府に求められている。

しかし、科学論文の無料公開の推進は
分野を問わず一律に実施するわけにはいかない。
例えば、“動きの速い”分子生物学と比較して
古い論文が読まれ続けることが多い社会科学では、
関連する学術雑誌の維持が困難になるだろう。

出版社はこのような課題を理解した上で、
社会が科学論文の公開性を高める方向に
動いていることをしっかりと認識すべきである。