エジプトからの土産話(イスラム教と軍と科学と文民統制)

 先日エジプトの友人から、中東の歴史やイスラム教について聞いた話が面白かったので、それについて書き留めておきたいと思います。
 きっかけは、スンナとシーアって何なのか、とこちらが訊いたことでした。

Q.イスラム教ってSunnah(スンナ)とShia(シーア)があるんだよね? 何が違うの?
友「SunnahとShiaがあるのはその通り。Sunnahはイスラム教の開祖Muḥammad(ムハンマド)を預言者としているのだけど、ShiaはAlī(アリー:Muḥammadの後継者候補であったが争いに敗れた)だけが預言者の後継者であるとしてるんだよね。」

Q.Quran(クールァン、コーラン)は一つなのに別の預言者がいるってこと?
友「Quranは一つしかない。ただ、誰が預言者の後継(指導者)たるかについての考えが違うんだ。」

Q.SunnahとShiaの人たちはなんで互いに争ってるの?
友「いや、両派の争いは政治的なものに過ぎない。市民どうしはSunnahとShiaでも争いなんて起こさないよ。エジプトではムスリムのほぼ全員がSunnahだけど、国内にSunnahとShiaが共存しているイラクやシリアだって、互いの間に問題は起こっていなかったんだ。でも、政府が一方を差別・排除しようとしてしまうと争いが起きるんだ。」

Q.エジプトにイスラム国の脅威はないのか?
友「イスラム国(IS)でなくDaesh(ダーイッシュ)な。脅威はない、治安も悪くない。
 そもそも、中東地域での紛争を米国は終結させる気なんてないと(エジプトなど周辺地域の)市民はみんな思ってる。」

Q.Sinai(シナイ半島)も問題ないってこと?
友「あはは、あそこは砂漠ばかりでほとんど住んでいる人はいない土地だよ。1967年(第三次中東戦争)でシナイはイスラエル領になった後、1982年(第四次中東戦争後)にエジプト領に戻ったけど、とにかく半島の大部分は砂漠だから。」

Q.Sinaiは今、エジプトとイスラエルの軍事干渉的な役割を果たしてるってこと?
友「そうとも言えるかな。」

Q.中東地域の紛争はどうしたら終わるんだろう?
友「それは簡単ではないだろうけど… なぜなら、そもそも市民は争うことなんて望んでいないんだから。繰り返すけど、例えばSunnahとShiaも隣同士で争いなく暮らせる人たちなんだ。
 一方でこの地域に介入している他国の存在がある。例えば、米国だけど、米国がSaddam Hussein(サダム・フセイン)を追い詰めたように、Daeshの指導者を捕えることはあの国にはできるはず。でもしていない。なぜか? 先日、イタリアで『Daeshを作ったのは米国だ』とジャーナリストが米国務長官(ケリー氏)に叫んだ一幕があったけれど、同様の理解をしている人は多いんじゃないかな。
 というのは、イスラエルパレスチナ問題がある限り、『イスラエルを守るため』という大義名分で米国は周辺に軍を駐留することができる。周辺での他の紛争も同様だ。市民は争うことなんて望んでいないのに、争いを望む政治的な力がこの地域の争いを終わらせないようにしてるんだろ、とみんな思ってる。」

Q.軍が力を持っている社会が、何とか変わるといいのだけど。
友「そう。軍が政権を担っていることが、今のエジプトの限界だ。軍事政権はいつでも、今の治安を守ることで手一杯。そもそも軍は、今の社会を守ることが仕事だから。軍が第一では、将来への投資が十分にされ得ないんだ。俺はそう考えてる。
 軍が社会を守るのか、科学が社会を守るのか、国家予算を何に使うのか。軍が社会を守る現実では科学の発展は遅々たるものだ。軍が第一の予算配分では将来への投資も十分でなければ、未来をより良くするのに必要な科学に敬意も払われない。」

 (これを聞いて、日本でも軍が政府の組閣を左右していた時代=とくに1930~40年台前半=の話を思い出した。軍人は戦争での功績がないと、勲章も昇進もない。そこから戦争をする方にインセンティブが働いてしまう。軍事予算も膨らむ。結果向かった先は……)


 ↑↑例えばこの本に書いてあります。私が最近、このブログを見たのをきっかけに読んだ本です。

友「そんな状況では国内で科学が発展しない。こちらの国で科学を追求するのはとても骨を折る仕事で、まだまだ科学は「輸入するもの」といった状況だ。そんな状況では観光業以外の産業も発展せず、市民の生活が良くなりもしない。残念ながらそれがエジプトの現状なんだ。」

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 近代史や現代社会の中で聞いた「文民統制」のもつ意味を、この話を聞いたときほど感じたことはありませんでした。そして、今という時代も将来から見ると一つ一つが歴史であること、だからこそ、私たちは歴史を知ることで学ぶことがたくさんあるのだろうと思った次第です。

 そしてまた、私も彼の科学への渇望や科学に対する姿勢に敬意を払い、そこから学びたいとも思う話でもありました。


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 友人がお土産にくれたとっても甘いエジプト菓子。このエジプトや、ブラジルや米国といった国の人たちが、甘さ(としか私には思えない)以上の尺度をお菓子に認めてくれるときが将来あるのか否か。そんなことが私の関心事から外れてくれないことも事実です。だって、本当に甘さ半端ないですから。ただその甘さも、文化を知って前より少し味わい深く感じてもいます。