東京理科大学の先生方と材料科学

 2010年1月より東京理科大学の学長に就かれた藤嶋昭先生は、2008年に次のような論文を発表しています。

 "TiO2 photocatalysis and related surface phenomena" Surface Science Reports 63(12): 515-582 (2008)

 これは、酸化チタンの持つ光触媒能に関する637編の論文に基づき、光触媒研究の歴史や現状が総説としてまとめられたものです。この論文が、同誌掲載の論文のうち「最近5年間で最もダウンロードされた論文」として評価されたそうです。
 私も、これを2008年当時にすでに読んでいました(非常に長かったです!)。その先生が、今やうちの学長になったこともあり、この評価はとても嬉しく思いました。

 材料科学といえば、炭素素材の一つであるグラフェンに関する研究が、2010年のノーベル物理学賞に選ばれましたね。

グラフェンにノーベル物理学賞
-Andre Geim & Konstantin Novoselov
(2010年10月6日、有機化学美術館・分館)

 これに関して、同じく炭素素材でノーベル賞級の新規物質「カーボンナノチューブ」との同時受賞は!? という声が業界から上がっています。


 カーボンナノチューブは、“夢の新素材”の一つと言われており、その応用に向けた研究が進められています。実際に、Nature Asia Pacific の材料研究に関するハイライト記事のページを見ると、カーボンナノチューブに関する研究が非常に多く取り上げられていることが分かります。
 つい先週の2010年9月27日にも、東京理科大学理工学部の岡野久仁彦助教、山下俊准教授らの発表論文が取り上げられていました。

 新聞などを見ていると、今回のノーベル賞物理賞の選考理由は「グラフェンの方がカーボンナノチューブよりも応用研究が進んでいるから」ではないかという論調が目立ちます。しかし、グラフェンの研究が専攻された理由は、Geim氏らの研究発表(2004年)の後にこの素材に関する研究が進み、生産コストが下がったこともあるように思います。(そういったことがノーベル賞の選考基準になるのかどうかは存じ上げませんが。)

 今、カーボンナノチューブの価格はグラフェンと比べてどの程度違うのでしょうか。そして、果たしてカーボンナノチューブについても応用研究が進めば、ノーベル賞に選ばれる日が来るのでしょうか。興味は尽きないところです。