記事紹介-理系大学院生活で養いたい3つの力

 羊土社『実験医学』2012年1月号に、この記事は面白いと思うものを見つけました。と思ってよく見たらそれは私の仲間が書いたものでした。

 「理系大学院生活で養いたい3つの力
 (実験医学 Opinion 第19回、豊田優・三田村圭祐・中原庸裕[生化学若い研究者の会 キュベット委員会]著)

 この記事で「理系大学院生の研究室生活において、研究以外で」学びたいものとして挙げているのは、1) プレゼンテーション能力、2) コミュニケーション能力、3) マネジメント能力の3つ。その通りだと思います。この記事は「(大学院の)在学生、卒業生の視点」で書かれたものとして、よく練られてもいます。

 ここで、私は一つのことをふと疑問に思いました。もし、大学院ではこれらを学ぶことに価値があると分かっている人が多くても、現状でそれは実現されていないとしたら、それはなぜなのだろうかと―


 逆に言うと、大学院におけるこれらの重要性に本当に気づいている人は、それを少しでも手に入れるために何らかのアクションを起こしているものと思われます。では、アクションを起こしていない人はなぜ起こしていないのでしょうか。その理由は、大きく分けて2通りであると私は思います。

 1) そもそも上記3つの力には関心がない
 2) 関心はあるが、それを身に付ける方法が分からない

 1) については、そのような生き方を望む方はしてくれればいいと思います。しかし、それはここでの議論の範囲外なので省きます。一方、2) の人に本人の望む能力を付けさせるとしたら、どうすれば良いでしょうか。それを実現できる大学院(の研究室)は、どの程度あるものでしょうか。
 その答えを、私はいま持ち合わせていません。ただ、研究に打ち込みながら上記3つの能力を付けていくためには、学生の側も大学院の側も注意を払うことがあるだろうとは思います。

 大学院生や、院を修了した後も大学にいる人は、是非考えてみてください。大学(院)で研究内容をプレゼンテーションすることに長けた人に、どれだけ出会ったことがあるでしょうか。大学(院)外まで見たときに、そのプレゼンに長けた人以上がどれだけいると想像できるでしょうか。もしくは、その人と違う形での有効なプレゼンが今いる場所の内外にどれだけあるでしょうか。
 ここではプレゼンテーション能力一つを取り上げましたが、他についても同じことです。

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 大学院の存在価値の一つは、そこで様々なことを実践から学べることであることだと私は思います。もっと言うと、他の人が実践するのを見ることと自らの実践とから、研究を通して様々なことを学べる場所という表現が正しいでしょうか。
 もしこれが正しいとした場合、大学院で何をすれば、自らが望む力を手に入れられるのか、何を見ればそれを手に入れられるのか。そのチャンスは果たして大学院にあるのか。学生にとってはそれを、大学院の進学前(や在籍中)に見極めることが大切になってきます。大学院にとっては、そういうことを見極めるチャンスを学生に与えられるかどうかが大切になるとも思います。
 以上は私の考えですが、皆さんはどう思われるでしょうか。

 学びたいことがあるけど学ぶ方法が分からないという人に、気づきのヒントを与えられるかどうか。実質的な学びのチャンスを与えられるかどうか。それが可能な教員が、その大学院にどの程度(の割合で)いるだろうか。
 その答えが、研究遂行能力に加えて「3つの力」をどれだけの学生に養えるかどうかについて、その大学院(の研究室)の力・価値を量るものになるのだろうと私は思います。

 残念ながら、私は全体像についての答えを持ち合わせてはいません。ただ、「3つの力」を養うチャンスを運良く私自身が与えられていることについては、感謝に尽きません。


 蛇足ですが、もう一言だけ。3つの力うちの3つ目の「マネジメント能力」については、それをほとんど持っていない人が自分では持っていると勘違いしているのを、たまに目にすることがあるので注意が必要です。そういう人が、その勘違いした力で人に影響力を及ぼそうとしていると、これまた厄介なことですよね。
 真に「3つの力」を学ばせてくれる、素晴らしい出会いが皆様にありますように。あ、私にもチャンスをください。

 世界に転がるチャンスに乾杯!

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